酒とさかちと105

2006年8月26日
 
「ギムレットを、貰えますか」

初めて入る店の雰囲気に飲まれながら
カウンターの一番奥に腰掛け、こうオーダーを入れてみた

吹きすさぶ木枯らしに、コートの襟を立て
緊張と不安を押し隠し、初めて105のドアを開けたあの日

今から7年前の事である
 
 
 
 
地元で行き付けのBarを探したい
 
 
酒を飲み始めた頃からの夢であった

社会人になり、酒を飲む機会も増え
Barにも行く様になり
カクテルも覚え、飲み方も学んだ

そして、地元に一人で行ける店を探そうと、意を決し
2軒目にして105のドアを開けた時から
そこが自分の根城となった
 
 
店の雰囲気、置いてある酒
バーテンダーの面々、やってくる常連客
その、どれもが自分の好みに合致した
よくこんな店が見付けられたと、今でも思うことが在る
幸運であったのだろう

かくして、105へ通う日々が始まった
 
 
初めは月に数回だったが、その内、週に数回になり、連日通う様になって行った
週に8回通った頃も在っただろうか

しかし、自分の生活も変わり、住まいも少し離れ
段々と行く機会も減っていった

そして、1年振りに尋ねて見ると
マスターが替わっていた
 
 
噂では聞いていた
子供も出来、昼の仕事に変えたいとも言っていた
自分の店を持ちたい、とも言っていた
どんな理由かは分からない
しかし、彼は店を辞め、新しいマスターが切り盛りしていた
 
 
この6年間、何か在る毎に105で飲んでいた
その度に、マスターには相談に乗ってもらい
また、黙って独りで飲ませてもらいもした
辛い事、嬉しい事が在る度に、テキーラをご馳走になりもした

思えば、自分の最大の理解者で在ったのかもしれない
だが、そのマスターも105にはもう居ない

しかし、それは決して嘆く事では無いのであろう
彼は自分の夢に向かって歩いて行ったのだから
 
 
後任のマスターも立派に店をまわしている
常連客も相変わらずだ
自分はこれからもこの店に通い
酒を飲み、そして、酒を語るのであろう
 
 
 
 
「ギムレットを、貰えますか」

この日、最後に飲んだギムレットは
少し苦い味がした
 
 

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